<p>
歪んだギターの壁が左右にそびえ立つHR/HMは、あらゆる音楽の中でもミックスの難易度が高いジャンルのひとつだと思います。
ただでさえ音数が多いのに、左右の帯域リソースを歪んだギターが埋めてしまうので、真っ当なやり方で棲み分けるのはほとんど不可能に近い。

今回はそのHR/HMのギターを私がどんなやり方で混ぜているのか、このジャンルのミックスではマストで習得しなければならないM/S処理を中心に、動画も交えて解説します。

話のストックがないので、山の話は緊急事態的なアレが終わるまでは書けません。
山サイトなのに……


&lt;h2&gt;トラック単位でやる処理&lt;/h2&gt;

&lt;h3&gt;ノイズゲート&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
&lt;iframe width=&quot;560&quot; height=&quot;315&quot; src=&quot;https://www.youtube.com/embed/-YuIdBBjycg&quot; frameborder=&quot;0&quot; allow=&quot;accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture&quot; allowfullscreen&gt;&lt;/iframe&gt;
&lt;/div&gt;

いきなり解説から入ってきますが、まぁノイズゲートに関しては適当に。
丁寧に波形をスライスするのは手間なので、無音部のちょっとしたノイズが消せていればなんでもいいです。
ハイゲインアンプの場合は、これに加えてアンプの前でもノイズゲートを掛けておいた方が後の処理が楽になりますね。

素の音はこんな感じ、という感覚で聴いてもらえればと。

&lt;h3&gt;ブリッジミュートした時の低域を抑える&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
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&lt;/div&gt;

Oxford SuprEsserを使って、ブリッジミュートしている時だけ特定の帯域にコンプを掛けます。
有名な、所謂Andy C4セッティングですね。
&lt;strong&gt;ブリッジミュートした時の低域の膨らみを抑える&lt;/strong&gt;のが目的なので、私の場合、それ以外のフレーズではリダクションしないように調整しています。
曲中にブリッジミュートするフレーズが出てこない時は使いません。
EQとして掛けるわけではないので、リダクションしていない時は音色を変化させないのが基本。

SuprEsserがなくても、リニアフェイズなマルチバンドコンプで代用できます。
Andy C4というくらいなのでWavesのC4が有名ですが、あれはリニアフェイズで帯域をスプリットしていないのでお勧めしません。

&lt;h3&gt;ダイナミックEQで他の楽器と棲み分ける&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
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&lt;/div&gt;

静的なEQでも別にいいんですが、静的なEQだと「常に同じ量のリダクションが掛かり続けている」状態。
それだと奥に引っ込む印象があって個人的にあまり好きではないので、基本的にDynamic EQで形を作っていきます。
掛かりっぱなしになるようにセッティングしてるので、静的なEQでも大差ないと思いますが。

コツはQを広く取ること。
ノッチフィルター的なQの狭いEQは、触ったところの近くの帯域が目立って聴こえてくるので、ギターに対しては基本的に使ってません。

どこを狙うかは好みに応じて……という感じ。
&lt;strong&gt;他の楽器の邪魔になる帯域をカット&lt;/strong&gt;していくことになると思うので、他の楽器を聞かないと何とも言えません。
ですが、主にギターが邪魔するのは主旋律とリバーブ成分になると思います。

Qが広いので全帯域に掛かってるように見えるかもしれません。
そう見えるならきっとそうなんだと思います。

静的なEQなら、LとRまとめて掛けて問題ないですね。
Dynamic EQの場合は入力音量に応じて得られる効果が変わるので、トラックごとに掛けないとダメ。

&lt;h3&gt;その他&lt;/h3&gt;

基本的にはこれだけ。これだけで済まない場合は録り直した方が早いです。
そこまで録り音を追い込むのが一番大事。
最近はKemperとかがあるので、何も考えなくていいのが楽ですね。
私は&lt;a href=&quot;https://gum.co/cckp01&quot; target=&quot;_blank&quot; rel=&quot;noopener noreferrer&quot;&gt;自作のRig&lt;/a&gt;を使っています。

&lt;h2&gt;M/S処理&lt;/h2&gt;

&lt;h3&gt;M/S処理でやること&lt;/h3&gt;

ミックスでやることには全て理由がないといけません。
ゴールの見えないやり方でM/S処理をしても、期待するような効果を得るのは難しいんじゃないかと思います。
というわけで、まずはゴールを定めないといけませんね。

HR/HMのミックスで一番ネックになるのは、最初に書いた通り左右のギターの壁。
休符以外のタイミングでは常にあらゆる帯域を占有してしまい、他の音が入り込む余地を残さない史上最悪の楽器です。

しかしHR/HMである以上、そのギターの壁の存在感はしっかりと残しつつ、他の音が入り込む余地を作らないといけない。
もちろんEQだけでもある程度の隙間を作ることはできますが、充分ではありません。

そんなわけで、ギターのM/S処理におけるゴールは、&lt;strong&gt;存在感は残しつつ他の音が入り込む余地を作ること&lt;/strong&gt;です。
無茶難題ですね。

&lt;h3&gt;ギターにM/S処理をする時のモニタリング&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
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&lt;/div&gt;

具体的なM/S処理の前に、まずはモニタリングの仕方について。
ミックスでM/S処理をする時は、トラックを&lt;strong&gt;ソロで鳴らしてモニタリングするのは厳禁&lt;/strong&gt;です。

ソロで聴いていると、定位感を把握するのが非常に難しい。
ソロで鳴らしていると「弄れば弄るほど定位感が失われて中央に寄っていくように聴こえる」んですが、実際には他の楽器も加わるとそうではなくなってくるので。
このギャップはヘッドホンやイヤホンだと特に露骨に出てくると思います。

特にHR/HMのギターは左右に振り切った状態で鳴らすので、それと対になるように、センターで鳴る楽器と、あとは左右のリソースをいっぱい使う楽器も一緒に鳴らしながら確認していきます。

というわけでここから先は、ドラムとベースも一緒に鳴っている状態で撮っています。
幸いこの曲はイントロが左chのギター1本、そこからベースが入ってドラムが入るという展開。
M/S処理をした音に他の楽器が加わると聴こえ方がどう変化するか、というのも参考にしながら聴いてみてください。

&lt;h3&gt;マルチバンドステレオイメージャー&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
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&lt;/div&gt;

ここから先はあくまで私がよくやる一例でしかないのですが、具体的な処理の解説に入ります。
まずはマルチバンドステレオイメージャー。いきなりギターのM/S処理の核になる処理から入ります。
ここでやるのは完成形を見据えて&lt;strong&gt;ギターが居ていい場所と、ギターが邪魔してはいけない場所を分ける&lt;/strong&gt;こと。

まずはギターの居場所を確保したい。
中央付近の低域にはキックとベースとスネアがいるのでやや混雑してますが、幸い左右の端の方にはギターの他に鳴る音は多くない。
シンバルの下はカットしてしまいますし、タムは打楽器なので音量さえ出ていればギターにも負けません。
ここはギターの居場所を作るチャンス。ローミッドのあたりかな、がっつり広げていきます。

次に、他の音が入り込む余地を作りたい。
中域はありとあらゆる楽器がひしめく過密エリア。
ギターのこのあたりの帯域はとにかく目立つ上に、中域のSide側にはリバーブ成分も居ます。
なのでギターのハイミッドには、ちょっと真ん中に引っ込んでもらうことにしましょうか。

そして、上に行くにつれて窄まっていくような音像にしないために、中域を引っ込めた分、高域は少し広げてやることにします。
HR/HMでは意外と混雑してないし、ちょっと広げてもあんまり問題にはならないエリア。
Side側を強調すると、ちょっとざらついた感じのクリスピーな音になりますね。
まぁ高域は割と適当なんですが。

&lt;a href=&quot;http://www.crowsclaw.info/img/210123-01.png&quot;&gt;&lt;img src=&quot;http://www.crowsclaw.info/img/210123-01-1216x684.png&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;1216&quot; height=&quot;684&quot; class=&quot;alignnone size-thumbnail wp-image-3713&quot; /&gt;&lt;/a&gt;

アナライザー映してると動画がすごい汚くなっちゃうので変えてしまったのですが、実際に私がやっているセッティングはこんな感じです。
後述するHPFやLPF、EQと合わせて初めて完成するものなので、このセッティング単体で掛けてもイマイチかも。

&lt;h3&gt;フィルタリング&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
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&lt;/div&gt;

ギターにHPFとLPFは必須です。
Side側の低域がダダ漏れだと締まりが悪い音になるので、HPFの位置はSide側を少し高めに設定しておきます。
高域は適当です。個人的な感触として、MidよりもSide側を少し高めに設定しておくと収まりがよく感じるかな。

EQはDMG AudioのEQualityをずっと使っています。これ以外を使う気が起きないくらい。
M/S処理もできるんですが、Mid専用機とSide専用機の2つを用意しないといけないのがちょっと面倒かな。
今回の動画では左がMid、右はSideを担当しています。

M/SでEQを掛ける時は絶対にリニアフェイズEQを使ってください。
なぜそれが必要なのかは以前書いた記事を参照。

https://www.crowsclaw.info/archives/351

&lt;h3&gt;M/S イコライジング&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
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&lt;/div&gt;

M/S EQは音色を変えるのではなく、特定の帯域の密度や広がりをピンポイントで制御するのに使います。
ステレオイメージャーで作った形を整えてやる感じ。
ハイミッドの密集地帯に一箇所、Side側の隙間を作ってやることで空間表現ができる帯域を確保。
ローミッドは主旋律やスネア、ベースが集まる帯域にMid側の隙間を作って主要な楽器の居場所を確保しました。

&lt;h3&gt;ギターのM/S処理のコツ&lt;/h3&gt;

&lt;div class=&quot;youtube&quot;&gt;
&lt;iframe width=&quot;560&quot; height=&quot;315&quot; src=&quot;https://www.youtube.com/embed/zcm92t2ammc&quot; frameborder=&quot;0&quot; allow=&quot;accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture&quot; allowfullscreen&gt;&lt;/iframe&gt;
&lt;/div&gt;

M/S処理というと左右に広げて真ん中に隙間を作りたい、っていう意識が先行しがちですが。
ギターの場合、意外とポイントになるのはSide側を狭めてやることだったりします。
Side側には実音以外の残響成分などが多く居るので、そこがギターで埋まると一気に空間が狭くなります。

しかし他の楽器に応用が効くかというと……（笑
ギター以外でM/S処理を積極的に使う場面はあんまり思いつきませんね。

M/S処理といってもM/Sコンプは使いません。使うと死にます。
理由は以前書いた記事を参照。

https://www.crowsclaw.info/archives/343

&lt;h2&gt;締めの一言&lt;/h2&gt;

こういう具体的なミックスでのM/S処理のTipsはほとんど見かけないので、未だに答え合わせができていないのが現状。
ですが、私はこの手法でようやく自分なりに納得できる音が出せるようになったので、たとえ正解とは違っても別にいいかなと。
正解の数はひとつではないですが、Andy SneapやAdam Dutkiewiczあたりが好んでこの音像を使ってる印象。

初心者の方からすると、ちょっと難しい視点で考える部分が多いかもしれません。
ですが、ちゃんと理解して効果的にアプローチできるようになれば、M/S処理をミックスに導入するメリットは大きいです。

M/S処理は音像や定位が崩れると言われることも多いですが、そもそも音像も定位も崩すのが今回の目的。
それさえ理解してさえいれば派手に間違えることはないんじゃないかなと思います。</p>

コラム：HR/HMのギターのミックスとM/S処理の活用

<p>
既に2週間近く経過しましたが、あけましておめでとうございます。
今年ものんびりやっていきますので、よろしくお願いいたします。

年末年始は冬山テン泊チャレンジのつもりだったのですが、昨今の情勢を鑑みてキャンセル。
家でずーっとアリスギアやってました。

いや、それだけではなくDTMもやってました。
それが今年の新年早々に公開した、艦これアレンジのリメイクです。


&lt;h2&gt;艦これのこと&lt;/h2&gt;

振り返ってみると、なんだかんだで結構ハマったゲームだったなぁ……。
当時とは私生活にも変化があって今は離れてしまってはいるけど、それでもリニューアルしてから4-1までは進めてるっぽい。
4面から難易度上がるイメージがあるのでちょっと躊躇ってます（笑

魅力的なキャラが多いのでたっぷり楽しませてもらいました。
嫁艦はビス子です。駄犬かわいい。

摩耶さまは大事にしすぎてLv99まで届かなかった……、ぶっちぎりの性能な対空番長なので、温存することが多かったですね。
でも改二実装前から好きな子です。

&lt;h2&gt;Opening - Assault Attack&lt;/h2&gt;

今回の再録はCD収録版ではなくて、Soundtrack Of The Fairy Taleを作る前あたりに習作として作ったEpicアレンジのリメイク。
オケ主体の原曲をHR/HMアレンジして、それを再度Epic/Cinematicにアレンジし直す形。
CD収録版のアレンジも結構気に入ってるんですが、今回は次の曲へとシームレスに繋ぎたかったのでこちらのバージョンです。
後述するように、他の理由もあるのですが。というか、そっちが主な理由ですが。

&lt;h2&gt;Iron Bottom Sound&lt;/h2&gt;

初出はEP版なので、これで2度目のリメイク。さすがに3度目はないでしょう。
主旋律は当時とは色々解釈を変えてみているので、CD版をお持ちの方はそのあたりの変化を探してみると面白いかと。
特に縦移動を交えたアルペジオフレーズのギターソロがかなり気に入ってます。
今回はハモりフレーズも入れてみたんですが、さすがにハモりの方は主旋律と移動方向を合わせることができなくて、2弦をスキッピングしたアルペジオになっています。5弦スウィープは苦手。

&lt;h2&gt;Shelling And Torpedoingのこと&lt;/h2&gt;

現役時代の作品の中で好きな作品を挙げるとすると、このCDはかなり上位に食い込んできます。
この作品を通じてアレンジに対する考え方が、一番最初にアレンジを作り始めた頃に戻れた。
それが結構大きい気がします。

作りたい方向に持っていくことにばかり意識が向いてしまった時期があって、でもそれをこのゲームの音楽に触れたことで矯正できたというか。
ゲーム中で流れていた音が、自分の中でどんな風に変換されて聴こえていたのか？っていう意識に戻ってくることができて、その後の二次創作にも活かすことができたので、かなり思い入れのあるCDです。

曲調にもそれは現れていて、かなりオーセンティックなHR/HMに回帰してますね。
このあたりの時期から、ゲーム音楽の生まれ方を考えると、HR/HMとしてアレンジできる方向性というのはある程度絞られるものかなと考えるようになりました。

ギターの技術的にもここから1〜2年くらいが一番脂の乗っていた時期だろうなぁ。

&lt;h2&gt;リメイク版 Opening - Assault Attack / Iron Bottom Sound 2021&lt;/h2&gt;

リメイク作品ということでどうしても老人の昔語りトークが続いてしまいますが、そろそろ切り上げて今回の曲の紹介に移ります。
実は昨年の後半に新しい音源を投入して、それを試したくて作り始めたのが最初の一歩。
所謂シネマティック系の音源なので、着手したのはOpening - Assault Attackの方が先ですね。
せっかく作るならIron Bottom Soundの方もリメイクを、ということでこちらも作る流れになりました。

どちらもあまり編曲を変えてはいないんですが、一度作ったアレンジをリメイクすることになるので、譜面はほとんど変えずに、解釈を変えられる部分を変えていった感じ。
一番大きいのはソロ後半のアルペジオフレーズにハモりが加わったことかな？
メインフレーズが横移動を使ってアルペジオにしていたんですが、ハモりの方は残念ながら横移動が使えずスキッピングで代用。
スウィープは苦手なので。

&lt;h2&gt;リメイクされない作品の境界線&lt;/h2&gt;

なんというか、この作品のリメイクはなかなか難しかったです。
このCDが境界線みたいなものになっていると思っていて、このCD以降が今の私が聴いても許せる内容になっているというか。
今でも聴けるので別にリメイクしなくてもいいじゃん、と思ってしまう。

精神面の変化と、あとは機材の変化も大きいなぁ……。WGSのスピーカーを導入したり、マキシマイザーをiZotopeに変えたり。
機材がブレイクスルーの切っ掛けになることは多々ありますね。

&lt;h2&gt;締めの一言&lt;/h2&gt;

今年はどうするかなぁ……正直なところ、音楽のモチベがそんなに高まっていないので去年ほどは曲は作らないと思います。
山には行きたいですが、ある程度病禍が収まるまでは難しそうな。

そんなわけで今年の目標は「月姫をやる」です。
えっ延期？いやあ、Type-Moonだしなぁ……一年くらいは想定の範囲内ですね。</p>

【新曲公開】Opening - Assault Attack / Iron Bottom Sound 2021

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