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【コラム】ローカットは必要か?

2024年09月23日2024年09月23日音系コラム

で、ローカットって必要なの?

最近、ローカットが必要かどうか、なんていう話がTwitterでは定期的に盛り上がる(燃え上がる?)ということを知りました。
そんなの自分で音聴いて判断すればいいよねって感じなんですが(何重にもオブラートに包んだ表現)、じゃあ必要な場合どれくらいカットするの?という話を聞いてみるとすごく違和感がありまして。

曰く、「音が変わらないところまで入れる」のがセオリーなのだとか。
……他所のジャンルがどうなのか知らないんですが、HR/HMではそんな甘いこと言ってられません。
1分間にキックを800回踏むこともあるジャンルでは、低域はもっとスマートかつタイトでエレガントに処理する必要がある。

また、それとは関係なく最近、日本のロックの音ってどんなのがトレンドなんだろう、と色々ピックアップして聴いてみたのですが。
どの音源を聴いてみても共通で感じたのは、低域の処理がなんか変じゃないか?ということ。
ベースの重心は妙に低いし、キックの重心はやたらと高い。
そのふたつはしっかり分けないと、キックのダイナミクスがわからなくなるよね……?
予算のなさそうな音源だけでなく、メジャーどころの音源を聴いてもそう。

と、そういう体験を経てふたつが繋がりました。
ミキシングでのローエンドの処理は、どうやら思っていたよりも軽んじられているんじゃないか、と。

というわけで今回は、私のやり方でのローエンドの処理について話していこうと思います。

今回の参考音源

ニューギアのお試しでさくっと作っただけの音源ですが、今回の解説に使えそうだなーと思ったので動画にしてみました。
このリフを元に曲を作る気はないので、手癖で。

ミックスも小一時間で済ませた簡単なもの。
寝かせてもいないし細かく詰めてもいないのですが、今回の解説には使えると思います。

関係ないのですが、ニューギアいいですね。さて何がニューギアでしょうか?
気が向いたらいずれ紹介します。

ローカットしておらず、他にも低域の処理が甘い状態

チャプター機能を使っているので同じ動画で。
今回の解説の肝になる低域の処理が甘い状態です。

違う部分は、ベースにHPFが入っていないことと、キックで(必要に応じて)やるべき処理をしていないこと。
ベースに関しては先ほどの音源とは、HPFの有無以外の違いはありません。

結構変わりますよね。
HPFが入っていないと、これだけベースは下に伸びます。
低音が出たよ、やったね!

……やったね!じゃない。
ベースの低域が無秩序に下に伸び続けてしまっているので、一番下に居るべきキックが窮屈な感じに。
このテンポだからまだいいですが、もっと早い曲だとぐちゃぐちゃになってしまいそう。
当然、そうなると存在感は減ります。存在感が減ると、目立たせるために無駄にボリュームを上げてしまったり、しなくていい処理を加えたりしてしまいます。

ベースが居ていい帯域と、キックが居るべき帯域というのは割としっかり分かれていた方が良いと思います。
その方がキックを踏んでいる時とそうでない時のメリハリがついて、On/Offのはっきりした音になるので。

じゃあどれくらいの位置にHPFを入れるのかというと。

こんな感じ。
73.9Hzだそうです。結構高い位置に入っていますね。
……いや、これでも私としては低めに抑えているのですが。

ベースのローBは30.9Hzなので、根音すらカットしていることになります。
が、それでいいんです。このあたりにHPFを入れることで、50Hzくらいから下はちゃんとキックの領域として開け渡せると思います。

巷には、低音楽器は低音が大事だからカットしちゃいけない、という雰囲気を感じるのですが。
そうじゃないんです。録り音や他の音に応じて、必要なことはしないといけない。

サイドチェインコンプでキックが踏んだ瞬間だけベースを下げる、というクラブミュージックライクな手法もありますが、個人的にはそれをHR/HMでやるメリットはないと考えています。
その手法ではキックの音数が多いと、ベースが引っ込んだまま帰ってきませんから……。

ちなみに、たまに誤解されているんじゃないかと思う瞬間があるのですが、HPFを入れるということは、その下がきれいさっぱり消えてなくなるということではありません。
80HzにHPFを入れるということは、それより下には用がないという意思表示ではないのです。

というわけで、ここからベースにHPFを入れたのが次の音源。

重心をコントロールできていないミックス

先ほどのテイクではベースのHPFを外していましたが、他にも低域の処理で大事なものを外しています。
キックの重心のコントロールです。

今回のテイクは先ほどのものからベースのHPFを入れたことで、一応低域の棲み分けには成功した……かと思いきや。
キックの重心がやや高いので、やっぱり低域が窮屈です。

基本的にミキシングでは、キックの重心からスネアの重心までのわずか100Hzほどの間にベースを収めないといけません。
頑張って針の穴を通すように居場所を作ったところで、そんな狭いスペースに収まるほどの存在感では、今のトレンドの音像と比べると物足りなくなるでしょうね。
であれば、どうするべきか。
簡単な話です。スペースが狭いと感じたら、広げてやればよいのです。

それが、これ。

100Hzなんて低域じゃないか!キックの低域をカットするなんて、なんてことをするんだ!
それに20Hzなんて再生できないし、ろくに聴こえない帯域じゃないか!
……みたいな先入観は捨てましょう。
100Hzを0.5dBカットしたくらいで低域がいなくなったりしませんので。

イメージはPultecのEQを使って、低域のブースト&カットを同時に行う感じ。
EQがこういうカーブを描くと、重心が下がってくれます。
多分、こうすることでピークの帯域を少し下にずらす効果があるんでしょうね。
というわけで、特定の帯域をカット&ブーストするという意図ではなくて、重心を下げるためのEQカーブでした。
ブーストしている20Hzという位置も、20Hzが良いというのではなく、Qの超緩いシェルビングみたいなカーブのブーストをしたいという意図。
敢えて重心高めのマイクを選んで使ったのですが、それでも予想より重心が低かったのでブースト&カット量は少なめ。
必要だと思った場合には3dB以上ブースト&カットしたりすることもあります。

ちなみにキックのHPFは、もっと高い位置に入っています。
そう、キックにもHPFが入ってるんです。
入れなくても別にいいんですけど、入れなかった場合にはマスタリングのタイミングで何かしら「キックのための対応」が必要になってくるので、ミックスの段階でちゃんと意図通りの音になるようにしておくのが私のやり方。
キックより低いところには誰も居ないので、ここは「どれだけ下に伸びているか」の制御だけできればOK。

こんな感じで、キックの重心を下げると冒頭の音源のようになります。
ベースのボリュームを下げることなく、しっかりキックとベースを同居させることができました。
これをすることで、キックからスネアまでの密集地帯の混雑を多少緩和できるので、全体的にも少し余裕のある音になってくると思います。

違いがわからないんだけど

聴き比べてみたけど違いがわからないって?

まぁYouTubeですし、圧縮音源になるのでスポイルされる部分はあるでしょう。
でも、違いがわからない場合は視聴環境の方に問題があると思います。
この違いがわからないと、正直モニタリング環境としてはキツい。むしろこの音源の粗が見えるくらいでないと……。

こういった部分の制御は、個人的には密閉型のヘッドホンをお勧めします。
残念ながら、開放型や半密閉型ではわからないと思います。
そして、スタジオユースではない所謂高価格帯のヘッドホンも、個人的にはこの違いはわかりづらいものが多いかなと思います。

私はこの分野では、もう長いことbayerdynamicのDT770PROを最も信頼しています。
他にはaudio technicaのATH-M50も結構わかりやすいかな、と感じました。
私がひとにお勧めするとしたらこの2つでしょうね。

サブウーファーは難しいと思います。
ニアフィールドモニター一本よりも低域が出るのは確かですが、例えば今回のようにキックの重心を下げるべきかという判断をするのは難しい視聴環境だなぁと思います。

おしまい

余談ですが、今回のようにベースとキックを棲み分けるという視点以外に、全体的に曲に適した量を選択するという判断も必要になってきます。
このあたりはジャンルによっても結構変わってきて、例えばパワーメタルとスラッシュメタルでは結構量感が変わってきます。
HR/HMというジャンルに絞れば音数がひとつの判断材料になるかなと思うのですが、リファレンスを使わずに絶対的な判断基準を決めるのは難しいですね。

というわけで、今回は低音の制御の話だけなので、これでおしまい。
もちろん、今回紹介した考え方や手法が唯一の正解ではありません。

ジャンルによりますが、基本的にはキックとベースは同じ場所に詰め込まない方がいい。
これだけでも覚えて帰ってくださいね。

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