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iZotopeボーカルミックスコンテスト ミックス解説

2023年10月09日2023年10月09日音系コラム

もう一ヶ月以上経ってしまいましたが、iZotopeボーカルミックスコンテストで最優秀賞に選んで頂いたミックスの解説をしようと思います。
さすがに自分の曲ではないので音源の公開はできませんが、音がなくても私が「何を考えてどんなことをしたのか」について触れることで少しでも参考になればいいなあと思いつつ。

ファーストインプレッション

音源を聴いてみて真っ先に思ったのは、これは難しい音源だなぁ、ということ。
ダイナミックで抑揚のついた楽曲と、ウィスパー気味のヴォーカル。ポップスやロックなら曲のダイナミクスに合わせた抑揚をつけた歌い方もできますが、この歌い方だと声を張れなさそうなので難しいでしょうね。
なので、この曲に合わせた抑揚をミキシングで加えてあげる(というと語弊がありますね、ちょっと歌の抑揚のお手伝いをする感覚)必要がありそうです。

あとは……そうですね、HR/HMじゃないから帯域の確保は楽そうだなぁ、とか……?(何
オケと2mixの間に音のミスマッチな印象は受けなかったので、必要以上にEQなどで加工する必要はなさそうです。

歌のトリートメント

歌に限らず、マイクで録ったものはだいたいトリートメントが必要になります。
今回はピッチ補正は要らなさそうだったので、ノイズ除去だけ。
たまたま今回のタイミングでiZotopeのRXを導入したので、iZotopeの動画をめっちゃ参考にしながらリップノイズや吹かれの補正をしてみました。

実際には、混ぜる段階になってから気になった箇所もあって、ペンツールを使って後から書いたりした箇所もあるのですが。
基本的には動画で解説されていることをなぞっている感じ。

他にはタイミングの補正も。
メインヴォーカルのタイミングはそのままで良さそうだなと思ったのですが、ハモリの方は音の頭と後ろをメインに合わせる形で補正しています。
こういう時はVocAlignが役に立つのですが、今回はうまく馴染まなかったのでAudioWarpを使って手動で。

あとは、ところどころブレスが切れてしまっている箇所が気になったので、譜面の似た箇所からブレスだけ引っ張ってきて自然に聞こえるように修正しています。
ブレスは目立たなくすることを中心に考えがちですが、でもやっぱり人の声。息継ぎが存在することって大事だと個人的には思います。
といっても目立たせる意図はないので、Bress Controlで音量を落としたりはしているのですが。

他にはディエッサーとかノイズゲートとか。
このあたりはいつもやるやつですね。わかりやすくて使い勝手がいいのでFabFilterを使っています。

ダイナミクスの制御

ヴォーカルのダイナミクス制御には結構時間を掛けました。主にボリュームフェーダーを書くところ。
今回は曲の抑揚に合わせて歌にも抑揚を加える必要があるので、Cubaseのグループチャンネルを生やしてオーディオトラックの出力をそこに繋いで、2本のボリュームフェーダーを使って役割を分けてボリュームを書いています。
冒頭のスクショがそれです。

一本のフェーダーで書き切ろうとすると絶対に混乱するので、こういうのはよくやります。
普通ならVCAフェーダーを使えばいいんですが、モノラルトラックはステレオ化したい派なので、だいたいいつもこんな感じのルーティングになってますね。

あとは波形を切り刻んでるのもスクショからバレてますが、これは音符1つの単位で音量が気になったときに、その1音だけ音量を上げたり下げたりする用途。
コンプの手前で音量を弄るので、コンプの効き具合にも関係してきますね。

コンプといえば、今回はコンプにFabfilterのPro-C2を使いました。
オプトモードでソフトニー、アタック開けまくってます。圧縮されたアタック感でコンプ臭さを出したくない時はいつもこんな感じ。

とにかく今回は、歌とオケの抑揚の擦り合わせが重要。
プラグインのツマミを弄ってる時間よりも、ボリュームを調整している時間の方が遥かに長かったです。

音色の調整

最初の方に書いたように個人的には、オケと歌の音色的な意味でのミスマッチ感はあまりなかったので、音色を大きく変えるような加工はあんまりしていないと思います。
高域を突いてキラキラな音色にしてもいいのですが、そういうことは意図していない、というのは曲とオケが語ってくれてますね。

EQでやっているのはHPFとLPFを入れること。
印象を変える意図ではないのですが、超低域や超高域が残っていると意図しない聴こえ方になったり、ノイズなどの面でもデメリットがあるので、だいたいいつもカットしています。
あとはなんか息のかすれる感じが目立つ帯域をちょっと落としたりとか、中域の密度が気になるのでそこをちょっと落としたりとか。
私は基本的にEQはぐいーっとQを広げて使うので、EQ単体でOn/Offを切り替えてもそこまで音色が変わるような印象は受けないと思います。

あとはPultec系のEQで超高域を広く薄くブーストして所謂エアー感とか言われるものを出したりとか、低域をカットしながらブーストして重心をちょい下げたりとか。音色の印象への影響力はこちらの方が強いかな。
OzoneのVintage EQはPultec系のカーブなので、こういう意図の時によく使います。

あとは、Oxfrod SuprEsserで圧迫感のある中域をリダクションしたりとか、パートによっては低域の補正も。
これは音色の操作よりも、後述する空間表現のスペースの確保の方がメインの意図ですが。

あ、あとSlate DigitalのRevivalで倍音をちょっと弄ったりしましたね。
意図して倍音をどうこうしたのはRevivalだけ。

空間表現

こういう曲調なので、空間表現にも結構気を使いますね。
普段は絶対やらない曲調なので、空間表現には結構悩みました。
EQでキラキラな感じにしていないのと同じく、リバーブも同じくキラキラした感じのものを使うわけにはいかないんですよね。そういう曲ではないので。

最終的に、空間はディレイをメインに使う形で落ち着きました。
といっても明確にディレイの音が聴こえるような感じではなくて、曇った感じの残響音がふわっと広がっていくイメージ。
SoundToysのEchoBoyでテープエコー系を選んで、LPFとHPFをがっつり入れて、ディレイ音自体はオケに埋もれるような音色にして掛けています。
あとはトラックの役割や、オケの音数や圧に応じてモノラルとピンポンディレイ、ステレオディレイを使い分け。
目立たないんだけど響きはある、という状態を維持するように心がけました。

もちろんディレイ単体では成立しないので、初期反射音と、隙間を埋めるようなホールリバーブも混ぜています。
最初はプレートを選んだのですが、途端にキラキラし始めたのでホールに変えました。

あとは空間表現として大事にしているのが、モノラルの音源をモノラルのまま使わないこと。
モノラルの音って、人間が自然界の音を聞く分には存在しないですからね……。
CubaseのMonoToStereoを使って、少し左右に広げています。Colorツマミで重心も変えられるので、この手のプラグインの中では一番使いやすいかな……。
MonoToStereoでがっつりステレオ化するんじゃなくて、初期反射音とうまいこと混ぜて場に馴染ませる感覚でやっています。

で、これで大体やったことは全部かな……と思ってたんですが。
どうしてももう少しだけ空間が欲しい、ということで、godspeed先生すまん……!と思いながらオケの中域を0.2dBくらいカットしました。
私の空間表現のやり方は中域を薄めにして、その空いたスペースに空間表現を盛り込んでいくもの。今回はオケの中域を0.2dB、空間表現のために借りさせてもらいました。

マスターでの処理

何もしてません!!

普段からマスターでは何もしないので、いつも通り何もしてません。
1曲通して再生してみても音量には多少のマージンがあったので、マキシマイザー的なものも掛けてません。
その影響でラウドネスも-16LUFSには届いていなかったのですが、レギュレーションを見る限り「審査は一律-16LUFS Integratedに合わせて」くれるはずなので、届いていなくても問題ないだろうと思いまして(何

終わりに

だいたいこんな感じで、言うは易し、でも行うは難し……?
実際に作業してみるとこれがまた難しくて。
プラグインを使った処理自体は、特別なことは全然やってないと思うのですが、どう聴こえるかを意識しながらひたすらボリュームフェーダーを触っていた記憶があります
やっぱり何を使うか、どう加工するかも大事ですが、そういう部分も大事ですね。

最後に、Twitterでは書いたのですが、こちらで改めて。
このようなコンテストを開催してくださったiZotopeとgodspeed先生、ありがとうございます。
ミックスで何が大事なのかを改めて思い出させてくれるような、難しくもやりごたえのあるコンテストでした。

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